解説4 測地系切り替えに関する留意点 ( 解説目次へ 解説3へ )

   日本測地系による地域メッシュ(以下では、「日本メッシュ」と略します。)を用いているデータを維持管理して行かざるを得ない場合であっても、原資料として用いるいろいろな地図データの方は世界測地系によるものが今後増加します。そのようなデータとの重ね合わせが頻繁になると、日本メッシュを用いているデータを、予め世界測地系による地域メッシュ(以下では、「世界メッシュ」と略します。)で整理し直したデータにしておき、このデータを更新編集する方が効率的ですので、既存のシステムで利用するために必要な日本メッシュによるデータは、このように更新編集を行った世界メッシュによるデータから測地系変換により作成するという方式が好まれるものと思われます。
   ここでは、日本メッシュ単位に整理されたデータを世界メッシュ単位のデータに整理し直したり、更新された世界メッシュ単位のデータを再度日本メッシュ単位のデータに戻したりする、測地系の切り替えを行う際に留意すべき事項について、DRMデータベースを例にして解説します。

4.1 DRMデータベースについて

   DRMデータベースは、日本全国の道路の位置・形状・ネットワーク構造等を網羅するデジタル道路地図データベースで、全国の道路管理者と道路データを利用する民間企業が協力して整備しているものです。このために昭和62年8月に(財)日本デジタル道路地図協会が設立され、DRMデータベースの整備更新を行うと共に、一般への提供を行っております。
   DRMデータベースの内容については、 ここ をご覧ください。
   DRMデータベースは、国土地理院の地形図を基図にしており、データは2次メッシュ単位に区分されています。初期整備は昭和62年に開始されましたので、この2次メッシュは、当然、日本メッシュ2次メッシュということになります。
   そこで、日本測地系による地域メッシュコードがJIS規格として失効するのを機に、DRMデータベースについても、世界メッシュ2次メッシュ単位に整理したものを提供することにしました。
   なお、DRMデータベースは、現在多数の国民が利用するカーナビの地図に用いられています。カーナビに付随した交通情報の提供サービス等もこの地図に依存していますので、DRMデータベースの規格を変更すると国民生活に関わる大きな支障が生じることが懸念されます。そこで、日本測地系による地域メッシュコードがJIS規格として失効した後も、従来と同じ規格のDRMデータベースの提供も続けることとしております。
   そのため、従来は、更新編集用のデータをそのまま提供用のデータにしていましたが、現在は、更新編集用のDRMデータベース(BM版)を独立させ、これから提供用のDRMデータベース(世界測地系準拠のBW版、並びに、従前と同じ規格の日本測地系準拠のB版(可変長フォーマット)及びA版(固定長フォーマット))を変換により作成するようにシステムを変更しております。整理すると、下表のとおりです。

時期 編集原本データ 変換データ
従前 B版(日本測地系、可変長フォーマット、提供用) A版(日本測地系、固定長フォーマット、提供用)
現在 BM版(世界測地系、可変長フォーマット) BW版(世界測地系、可変長フォーマット、提供用)
B版(日本測地系、可変長フォーマット、提供用)
A版(日本測地系、固定長フォーマット、提供用)


4.2 測地系の変換の問題

   日本測地系世界測地系の間の変換については、変換元の経緯度がどのようにして得られたかを吟味して、最も妥当な変換方法を選ぶことが原則です。
   厳密に言えば、日本測地系の地図から得た経緯度であれば、元の地図が地形図か海図かで扱いが変わりますし、世界測地系の地図から得た経緯度であれば、大きな地震の前か後かで扱いが変わります。(地震の影響については、後出の4.5を参照してください。)
   ただし、通常は、陸部の地点については、国土地理院の測量成果に基づいた地図等から得られた経緯度値である可能性が高いですから、他に情報が無ければ、国土地理院が公開している方法で変換するのが妥当でしょう。
   この方法は、次のような手順で行うものです。
    ① その地点の経緯度(日本測地系)から、その点が含まれる3次メッシュ日本測地系)を求めます。
    ② その3次メッシュの4隅の地点の変換パラメータの値を、数表から検索します。
    ③ 経度、緯度について、それぞれ検索した4個の変換パラメータの値から、バイリニア補間により、その点の変換パラメータを求めます。
   この方法で変換する場合には、国土地理院から、座標補正ソフトウエア“PatchJGD”及び“PatchJGD(標高版)”が公開されています。補正パラメータもこれに含まれています。 これについては ここ を参照してください。
   また、海部については、日本測地系に準拠した海図等で得られた経緯度である可能性が高いでしょうから、他に情報が無ければ、海上保安庁海洋情報部が公表している変換パラメータ値を用いるのが妥当でしょう。海洋情報部の「経緯度数値の変換方法」については、 ここ を参照してください。

   なお、DRMデータベースでは、経緯度そのものではなく、経緯度から変換して得られる2次メッシュ単位の正規化座標で位置を表現しています。そこで、計算を簡便にするため、日本測地系による2次メッシュの正規化座標から直接世界測地系による2次メッシュの正規化座標へ変換を行っています。手順は、上述の経緯度の場合と同様、先ず2次メッシュ単位の正規化座標から所属する3次メッシュを求めた後、3次メッシュ単位のバイリニア補間を行って、その結果を2次メッシュ単位の正規化座標に変換しています。ただし、国土地理院から3次メッシュ単位の変換パラメータの値が公開されていない場合には2次メッシュ単位のバイリニア補間を用いています。

4.3 形状データの問題

   デジタル地図データの中で、形状が一点である点データ(例えば、基準点・水準点など)の場合は、1個の座標しかありませんので、メッシュの区画が変わっても比較的簡単に区分し直すことができますが、形状が直線や曲線である線データ(例えば、道路網、鉄道網など)の場合は、複数の座標で構成される座標列であらわされているため、世界メッシュの区画線をまたぐ場合は、座標列と区画線の交点を求め、この交点で座標列を二つに分断して、それぞれの部分が1個の世界メッシュ内に収まるようにする処理が必要になります。また、日本メッシュでは二つのメッシュに分かれているが一続きの形状になっている2個の座標列が、世界メッシュでは一つのメッシュに収まる場合は、形状データを一続きになるように統合する必要があります。更に、形状が面であるような面データ(例えば、湖沼、公園、大規模施設など)は、その広がりを境界線の形状で表しますので、線データと同様な処置が必要になります。

 参考のために、DRMデータベースのデータについて、日本メッシュで整理されていたデータを、世界メッシュで整理し直した様子を次に示しておきます。

   〇 元の日本メッシュ2次メッシュ)単位に整理されたデータ


   〇 上のデータを世界>メッシュ2次メッシュ)単位に整理し直したデータ

   上の図は、元にした日本メッシュで整理されたデータを表示したものです。中央の2次メッシュ日本メッシュ)と隣接する8個の2次メッシュ日本メッシュ)のデータを、区画が分かるように、わざと間隔をあけて表示しています。2次メッシュ日本メッシュ)の内部の細線は世界測地系の区画線です。ピンクで表した地点は、道路の交差点や属性が変わる地点で、通常「ノード」と呼んでいるものです。
   下の図は、上の日本メッシュで整理されたデータを、世界メッシュに整理し直したデータを、上と同様に表示したものです。中央の2次メッシュ世界メッシュ)と隣接する8個の2次メッシュ世界2次メッシュ)のデータを表示しています。ただし、2次メッシュ世界メッシュ)の内部の細線は、こちらでは日本測地系の区画線です。
   上の図では、2次メッシュ(日本メッシュ)の区画線上にノードがありますが、世界測地系の区画線上にはノードがありません。しかし、下の図では、世界メッシュの区画線上に新たにノードが作られていることが分かります。
   ちなみに、世界メッシュに整理するだけであれば、逆に日本メッシュの区画線上のノードは削除するのが普通ですが、ここでは、比較のためにそのまま残して表示しています。

4.4 メッシュ内一意番号の問題

   形状が点データであっても、他の点と区別するためにID番号が付いている場合は、別種の難しさに直面する可能性があります。
   例えば、全国の道路交差点のID番号のように、全国的に分布するものの番号を振る場合、確実に一つの番号が必ず一つの交差点に対応するようにするために、まず交差点を、2次メッシュごとに整理しておき、それぞれの2次メッシュごとに、そのメッシュに含まれる交差点に、1番、2番、・・・のようにユニークな一意番号を振ります。そして、各交差点について、その点が含まれる2次メッシュ地域メッシュコードと、その2次メッシュの中でその交差点に振られた一意番号を組み合わせたものを、その交差点のID番号にします。
   このようにすると、同じ日本測地系2次メッシュに含まれる交差点については、みな同じ2次メッシュコードをいちいち断らなくても、メッシュ内一意番号だけで、交差点を識別できます。ところが、世界測地系メッシュに区分し直す場合、隣り合う別々の日本測地系2次メッシュに含まれているメッシュ内一意番号が等しい交差点が、同じ世界測地系2次メッシュに含まれる可能性がありますので、もはや世界測地系2次メッシュについては「メッシュ内一意番号」とはいえなくなります。したがって、同じファイルに整理された交差点であっても、常に日本測地系2次メッシュメッシュコードを明示しないとID番号としての役割が果たせなくなります。
   対処法は次の2つしかありません。
    a)世界測地系メッシュについて、新たにメッシュ内一意番号を振る。
     利点 メッシュ内一意番号の最大桁数は、従来の日本測地系メッシュについてのメッシュ内一意番号の最大桁数と、ほぼ同じなので、扱い易い。
     欠点 従来のID番号とは関係が無くなる。
    b)日本測地系メッシュコード日本測地系メッシュ内一意番号を、世界測地系メッシュメッシュ内一意番号として扱う。
     (言い換えると、世界測地系メッシュについては、メッシュ内一意番号はなく、全体一意番号しかない。)
     利点 従来のID番号と同じなので、データの継続利用が容易。
     欠点 同じ世界メッシュ内であっても、常に日本測地系メッシュコードを添えないといけないので、扱い難い。
   実際のデータにおいては、いろいろな状況を判断して、決める必要があります。
   DRMデータベースにおいては、道路の交差点等にノード番号を付与しており、これが、日本メッシュ内の一意番号になっています。新たに世界メッシュ単位のデータを提供するに際し、従来との互換性を保つことを優先して、上記のb)の方式を採用しています。
   なお、b)の方法を用いる場合に、同じ世界測地系メッシュ内であっても、桁数の長いID番号を用いなければならない欠点を緩和する一つの工夫として、世界メッシュ単位の提供データであるDRMデータベース(BW版)については、次のような「区画コード」を、便宜のために計算して添えています。

   区画コード   世界メッシュ内で日本メッシュの区画辺で区切られた区画に付けた
         0 ~ 8 の番号を表します。
     0:同一コードの日本メッシュ(以下、「対応日本メッシュ」という)
      と重複する部分の区画
     1:対応日本メッシュの南隣の日本メッシュと重複する部分の区画
     2:対応日本メッシュの南東隣の日本メッシュと重複する部分の区画
     3:対応日本メッシュの東隣の日本メッシュと重複する部分の区画
     4:対応日本メッシュの北東隣の日本メッシュと重複する部分の区画
     5:対応日本メッシュの北隣の日本メッシュと重複する部分の区画
     6:対応日本メッシュの北西隣の日本メッシュと重複する部分の区画
     7:対応日本メッシュの西隣の日本メッシュと重複する部分の区画
     8:対応日本メッシュの南西隣の日本メッシュと重複する部分の区画

   例えば、コードが543931 の世界測地系2次メッシュにおいて、ID番号が 543931_01234 である地点があった場合、その地点が含まれる区画の区画コードは 0 であるので、0_01234が、あるいはひとまとめにすれば 001234がこのノードの世界測地系2次メッシュメッシュ内IDになります。
   同様に、同じ世界測地系2次メッシュに、ノード番号が 543932_52071 である地点があった場合、地点が含まれる区画の区画コードは 3 であるので、3_52071 が、あるいはひとまとめにすれば 352071 がこのノードの世界測地系2次メッシュメッシュ内IDになります。
   区画コードが 0 の場合は、区画コード付ID番号は元のID番号と数値として同一になります(注)が、このような場合が全体の93.4%(面積比)を占めます。区画コード1は全体の3.9%、2は0.1%、3は2.6%を占め、残りの 4~8は極めて稀で、現れたとして例外的です。
   (注)枝番方式の6桁ノード番号
   区画コード付ID番号としては、枝番方式も可能です。この場合は、0_01234 が01234_0 であらわされ、3_52071 は52071_3 であらわされます。実務上は、枝番の 0 の記述を省略することにすれば、枝番方式でも大半のID番号と数値が同一になります。

4.5 地殻変動の問題

   日本列島は、地球上で地殻変動が激しい地域に位置し、特に大きな地震が発生しなくとも、普段人が気づかない連続的な変動が起きてきます。( 大きな地震が少なかった時期(1996年4月~1999年12月)の地殻変動の特徴を、国土地理院がアニメーション( 平面図 鳥瞰図 )で紹介していますのでご参照ください。)
   それが、大規模な地殻変動が発生すると、地表のものの位置がはっきりとずれます。普通は、地震直後に大きくずれ、その後も余震や余効変動による動きを続けながら、次第に安定してきます。最終的に、以前に比べて大きなずれが残ると、地図を修正する必要があります。
   平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震により大きな地殻変動が起こりました。ここでは、これを例にして解説します。
   国土地理院は、地震前後の測量結果を比較して、東日本の各地の位置の変化の様子を整理して、公表しています。
   これによると、最大約5.3mの水平移動と、最大で約1.2mの沈降があったことになります。
   地図の縮尺が2万5千分の1程度の中縮尺以下の場合は、この程度の移動は無視してかまいませんが、縮尺が2千5百分の1程度以上の大縮尺の地図においては目的に応じて補正する必要があります。
   国土地理院では、地震前の経緯度から、4.2で解説したのと同様な方法で地震後の経緯度を計算するための補正パラメータも公表しています。
   大縮尺の地図データの場合は、これを用いて次のように計算するのが良いでしょう。
    ① その地点の経緯度(世界測地系)から、その点が含まれる3次メッシュ世界測地系)を求めます。
    ② その3次メッシュの4隅の地点の変換パラメータの値を、数表から検索します。
    ③ 経度、緯度について、それぞれ検索した4個の変換パラメータの値から、バイリニア補間により、その点の変換パラメータを求めます。
   この方法で変換する場合には、国土地理院から、座標補正ソフトウエア“PatchJGD”及び“PatchJGD(標高版)”が公開されています。補正パラメータもこれに含まれています。 これについては 座標・標高補正パラメータ を参照してください。
   世界測地系による地域メッシュに準拠したデータであれば、このような地殻変動が影響するようなものについては、通常補正を行うことになりますが、日本測地系による地域メッシュに準拠したデータについては、地図データは補正しないで済ますことも考えられます。
 ① 地殻変動を補正しないケース
   例えば、カーナビのように車の位置をGPSで求める場合、GPSから求めた経緯度を変換計算して、日本メッシュの地図データに合うようにします。従って、この変換計算の中に地殻変動の分まで含めてしまえば、地図データの方は変えないで済みます。
   勿論、津波で流されてしまった道路は削除し、新たに建設された道路は、地殻変動が無かったらそこにあったであろう位置を逆に計算して、地図データを修正しておく必要があります。
  
処理必要な変換
地図データ
の修正
①存続道路(元データは日本測地系変換無し
②新設道路(元データは世界測地系))地殻変動逆補正( B-1 ) → 測地系逆変換( A-1 )
世界測地系データの重ね合わせ地殻変動逆補正( B-1 ) → 測地系逆変換( A-1 )

 ② 地殻変動を補正するケース
   補正パラメータを用いて地図データを補正する場合は、上のカーナビのような例では、GPSから求めた経緯度を変換計算する場合は、地殻変動が起きる前に用いていたものと同じ変換式に依ることになります。ここで、国土地理院の補正パラメータを用いる際、地殻変動の補正については、世界測地系3次メッシュであることに注意してください。これに対して、日本測地系から世界測地系への変換パラメータは、日本測地系3次メッシュです。
   また、津波で流されてしまった道路は削除し、新たに建設された道路は、地殻変動後の位置で地図データを修正することになります。
  
処理必要な変換
地図データ
の修正
①存続道路(元データは日本測地系測地系変換( F ) → 地殻変動補正( G ) → 測地系逆変換( F-1 )
②新設道路(元データは世界測地系))測地系逆変換( F-1 )
世界測地系データの重ね合わせ測地系逆変換( F-1 )

(注)用語の説明
   測地系変換( F )      日本測地系から世界測地系への変換
   測地系逆変換( F-1 )   世界測地系から日本測地系への変換
   地殻変動補正( G )    地殻変動前の位置を地殻変動後の位置へ移動させる補正
   地殻変動逆補正( G-1 ) 地殻変動後の位置を地殻変動前の位置へ引き戻す補正

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